諦めない強さを教えてもらった。
そして新しい道を示してくれた課長。
今は、自分がそれを支える立場だ。右足を触る。
最近手術をして人工骨を入れたばかりだ。
必死にリハビリをして復帰をした。
皆もそれぞれ頑張っている。自分も頑張りたい。
そう思えた時ある決断をした。
今がそれを示す時ではないかって……。
私しか出来ないこと。それは……。
「亮平さん。私と勝負して下さい!」
私は、課長に勝負を挑んだ。
世界の金メダリストに勝負を挑むとか無鉄砲な事を
言っているのは理解している。
でも自分の意思を見てほしかった。それで
課長の背中を押せるのなら……。
「勝負って……何をまた急に?」
「急じゃありません。私は、皆さんの頑張りを見て
自分も亮平さんの何かの役に立ちたくて
うずうずしていたんです。
私が勝ったら亮平さんは、私の希望を叶えて下さい。
もし負けたら私が何でも言うことを聞きます。
これは、真剣勝負です!」
「……いいだろう。その勝負に乗った」
課長は、私の目的が分かったのかニヤリと笑った。
やるなら全力で……課長との勝負をすることに。
次の日場所は、スポーツクラブにした。
篠原さんが勝負を見守ってもらう。
ただ走るだけだと私は、不利なので特別に
50メートルのハンデを貰う。
絶対に勝つ。そのつもりで
スタートに着くと篠原さんの合図に走り出した。
私は、必死に走った。手の振り方や走り方を意識して
全力で前に出る。今まで軽い走りばかりだったから
久しぶりに真剣にやると気持ちがいい。
しかし勝負の世界は甘くない。
後ろから軽快な走りで課長が追い上げてきた。
速い……50メートルのハンデなんてもろともしない。
慌てて逃げようとしたが後ろを気にするあまり
また躓いて転んでしまった。
相変わらずだ。課長も驚いて止まる。
「大丈夫か?結衣……」
「だ、大丈夫です……すみません」
前の私だったら、悔しくて諦めていたところだ。
走れない自分が情けないと言いながら
私は、怪我をして走れなくなることは、
情けなくて、二度と表舞台で立てないことだと思っていた。
だが違った……。
怪我や病気、切断することになったって
ちゃんと表舞台で立てるのだと知った。
情けないのは、走れなくなった自分じゃない。
それを言い訳にして前を向こうとしなかった自分自身
なんだと思い知らされた……。