なんて命知らずな……。
あの鬼課長として恐れられているのに
変わらずに生意気な態度を取ってきたじゃないか。
怖いもの知らずな……。

「こら、日向さんに何て口の聞き方をしてるの!?
すみません……息子が」

翼君のお母さんは、ペコペコと頭を下げて
謝罪をしてくれたが、少しやつれて疲れた表情をしていた。
きっと翼君のことで悩んでいるのだろう。

「いえ、気にしないで下さい。
今日は、翼君に渡したい物があって来たんです」

「翼に……?」

「はい。ちょっと失礼します」

そう言うと課長は、翼君が寝ている
ベッドに近付いていく。
私もお母さんに頭を下げるとその後ろをついて行く。
ムスッと横を向いていた翼君だが課長と私をチラッと見た。

「その人……誰?」

えっ?私!?
急に私のことを言われたから驚いてしまった。

「あぁ、紹介する。俺の婚約者の二階堂結衣だ。
俺の働いている会社の部下でもあるのだが」

課長が代わりに自己紹介してくれた。
私は精一杯の笑顔になった。
とにかくいい印象を持たれないと……。
しかし聞く気がないのかフンッとそっぽを向かれてしまう。
ガーンとショックを受ける。
オロオロしているとふぅ……と課長は、
ため息を吐いた。

「翼君。俺は、今度の東京パラリンピックに
陸上選手として出場が決まった」

翼君にパラリンピックのことを報告した。
すると翼君は、ビクッと反応したが
背中を向けないまま振り向こうとしなかった。

「ふーん。で?
そんな義足で走って恥を晒しに行くんだ?」

なっ!?恥を晒しだなんて……酷い。
課長を馬鹿にしてきたので少しムカついてきた。
何でそんな言い方をするのだろう。