そんなことを思いながら
パラリンピックの開幕が近付いて来るのを待っていた。
そんなある日。お弁当を食べていたら課長が
「今日仕事が終わったら寄りたいところがあるのだが
結衣も一緒に来てくれないか?」と言ってきた。

「えっ?何処にですか?」

「翼君のお見舞いに行こうと思ってな。
もうすぐ開幕するパラリンピックの前にどうしても
伝えたいことがあってな。チケットも渡したいし」

課長……。
翼君は、事故で脚がマヒになってしまった
中学生の男の子だ。
手術をしてくれないためお見舞いに行きながら
説得をしていた。同じように辛い経験をしてきた
課長は、ずっと気掛かりになっていた。
可能性を信じてほしいと願いながら……。

「いいですね。分かりました」

課長がパラリンピックに出ることで
その子にも励みになるといいのだけど……。
私は、そう考えていた。

そして仕事が終わると私と課長は、
翼君が入院をしている病院に向かった。
病院に着くと入院している病室に行き課長が
ドアを開けようとした。すると怒鳴り声が聞こえてきた。
私達は、慌てて開けた。

「うるせぇ!!
俺のことは、放っておけよ!」

食べかけの食事をひっくり返してしまっていた。
あちらこちらに本なども放り投げられており
荒れていた。聞いていた通り自棄になっており
気性の荒い子だった。無理もないけど……。

「翼……」

お母さんらしき人が困っていた。
すると課長は、堂々と中に入って行く。
ちょっと大丈夫ですか!?課長……。
私は、オロオロとしてしまう。

「こら、翼君。食べ物を粗末にしたらダメだろ!?」

課長は、怖い表情で叱り飛ばした。
すると翼君は、一瞬ビクッと戸惑ったがすぐに元に戻り
「うるせーな。他人が口出ししてんじゃねぇーよ!?」と
言い返してきた。