「そうそう。俺も後で聞いて驚きましたよ。
まさか、松岡が……」とため息混じりで言い出した。
どういうこと……?
意味が分からずにいると課長が驚いている私に
気づいてくれた。
「結衣。コイツは……確かに視覚障害で
まったく目が見えない。それに陸上などの活躍から
『盲目の天才ランナー』と言われていたりするが
俺らの間で別の異名を持つ。それは、
『盲目のペテン師』だ!」
盲目のペテン師!?
凄いネーミングセンスに驚いた。
松岡さんと盲目のペテン師の愛称が
どうしても結び付かない。
しかし課長は、呆れたように
「盲目に、このニコニコした表情や行動から
騙されやすい奴も多いが実は、コイツのIQは、
200もある天才だ。
本気を出したら俺でも敵わないほどのな。
表向きは、弟が跡を継ぎ。
社長として公表をしているが、裏で全ての権力は、
コイツが握っている」
えぇっー!?
IQが200あるのもかなり驚かされるが
松岡さんってそんな人だったの?
いつもニコニコと物腰が柔らかくて
少し天然が入ったような人柄だと思っていた。
課長や源さん達とじゃれ合ったりしているし……。
そんな人が課長も敵わないほどの
頭脳を持ち合わせていると誰が思うだろうか。
しかも、目が見えないのに……どうやって?
そうしたら松岡さんは、クスクスと笑っていた。
「嫌だなぁ……裏で権力を握っているだなんて。
僕は、ただ弟に少しアドバイスをして
あげているだけですよ?
我が社、全社員達の名前や個人データに会社状況、
売り上げなどは、全て僕の頭の中に入っているので」
今……さらりと凄いことを言ったわ。
社員全員って。
一体、何百人……いや何千人居るの!?
それを全て把握しているって、どれだけの
記憶力を持っているのだろうか?
私は、それを聞いて唖然としてしまう。
「十分に凄いと思うが…それだけの記憶力があるのなら
何故、弟に譲ったんだ?
お前ならやれたのではないのか?」
「それは、無理でしょうね。俺は、目が見えない。
品物や状況を見ることが出来ませんし……それに
父や上層部もそうですが世間は、見えない僕を
経営が無理だと勝手に決めつけています。
それに比べて弟……幸哉は、品物や質を見る才能は、
誰よりも優れている。それなら彼に継いでもらった方が
経営が上手く行くでしょう」
源さんの言葉に松岡さんは、
クスッと笑うとそう言ってきた。
諦めているという感じではない。
「それに……俺は、もともと社長に向いていない。
人前に出るのが苦手ですし……。
上に立つことよりも平社員として、のんびりと
働いている方が向いています。
それにいいですよ。下は……俺が居ても
盲目だからって皆さん。
油断して内情を話してくれますから。
もし聞かれても何も出来ないと思うからでしょうね」