その日を境に、白猫が現れる回数は格段に増えた。

話し相手をしてもらう対価のおやつはもちろん"かつおぶし"。他にも人気の猫用フードに猫用ミルクも用意した。

【ミルク】
「はいはい。ごめんなさい。白猫ちゃん」

最初は単語しか読み取れなかった。
でも、ジッと金色の目を見つめながら耳を澄ますうちに、流れるような文章として聞き取れるようになったのである。

【その、白猫ちゃんって言うのやめろよ。気持ち悪い】
「えっ? じゃなあなんて呼べばいいの?」

【又吉】
「あらまあ、随分古風な名前なのね。又吉の飼い主って、どんな人? おじいちゃん?」

又吉と目が合った時、頭に浮かんだのは、すらりとした背格好の、髪の長い、若い男性。着物を着てお花を生けているようだ。

「意外と若いのね。もしかして華道家なのかしら。素敵な人じゃない」
得意げな顔で又吉は、ニャアと鳴く。【まあな】というニャアだ。


それからの私は、お昼休みになると以前にもまして外階段に出るようになった。

正社員の先輩たちはほとんどが外食に出てしまうし、部屋に残ったところで誰かと話をするわけじゃない。南さんのようにお弁当を持ってくる人は自分の席でお昼ご飯を食べて、静かに過ごしている。契約社員の私がお昼になにをしているなんて、気に留める人もいない。