その日の私は朝の情報番組の占い通り恋愛運が良かったらしい。くじ引きで決まった座席は、なんと秋山さんの隣だったのだ。

気が動転して挙動不審な私に、彼は他の人に対してと変わらない笑顔を向けてくれた。

『有水さんが作ってくれた資料は、レイアウトもきれいだしとっても見やすい。いつもありがとう』
彼は、そう言って芸能人のように白い歯を見せる。

「秋山さんはね"うすい"って私の名前を言ったの。それって、すごいことなのよ。この会社には従業員が三百人くらいいるし、私の名前をちゃんと言ってくれる人は少ないの。この名札を見ながらアリミズさんとか言ったり。そんな感じなのに、彼はちゃんと私の名前を憶えていてくれたんだ」

それだけでも十分感動だったのに、仕事も褒めてもくれた。そして会話のネタもない私に、彼は次々と気さくに話を振ってくれた。

『休みの日はなにしてるの?』
『……ネット配信の映画とか、ドラマを見たり……あとは手芸とか』
『そうなんだ。何かおもしろいのがあったら教えてよ。今年ナンバーワンのおすすめは?』

さすが営業部。会話は言葉のキャッチボールというけれど、私が拾いやすいところにふんわりと優しいボールを投げてくれる秋山さんのお蔭で、暑気払いの二時間はあっという間に過ぎた。

物足りないと思った自分にも驚いた。いつも先輩女子の影に隠れて早く帰りたいと思ってばかりいた会社の飲み会が、楽しいと思えたのは初めてだったから。

「秋山さんは私に気を遣って疲れちゃったかもしれないわね……」

でも、私は本当に楽しくて、東京に出てきて一番幸せに思えた時間だった。

「あの日から、私の毎日は白黒じゃなくて、カラーになったの」

会社に来るのが楽しくて、秋山さんの顔と挨拶交わせた日はそれだけでバラ色になる。エレベーターでふたりきりになれた時は、黄金色にキラキラと輝いて、いっそエレベーターが故障して閉じ込められたらいいのにと願ったり。