「よかったら、また遊びにおいで。今度はなにか、あなたのおやつを持ってくるから」

白猫は横に寝そべったまま迷惑そうにチラリと見上げ、それでもニャアと可愛い声で鳴いた。



次に白猫が現れたのは、一週間後だった。
同じように青空が眩しい暖かい日で、白猫は、【またあんたか】と言いたそうな目を向けた。

「そんな顔しないでよ。はい、持って来たわよ、おやつ」

差し出したのは人間用だけれど無添加の、食べる煮干し。「どうぞ」と鼻先に差し出すと、白猫はカプッと食いついて、ムシャムシャと食べる。

「よかった。気に入ってくれたのね」

その後も更にふたつほど食べて満足した彼は、ペロペロと念入りに顔の周りの掃除をはじめ、ごろんと横になる。

「じゃあ、また話を聞いてね」
対価は払ったのだ。遠慮なく、またしても私は一方的に話はじめた。

「今日は仕事の愚痴じゃないの。実はね」

私には気になる人がいる。

営業部のエース秋山さん、歳は私より三つ上の二十八才。スタイルもよくて笑顔も素敵で、女子社員たちの人気者。ご多分に漏れず私も他の女性たちのように、密かに彼が気になっていた。
田舎ではついぞ見かけない、シュッとしたイケメンに、私は心を奪われたのである。

「恋っていうか、憧れね。うふふ」

お近づきになれないかなぁと思い続けたものの、私の所属は総務部。
フロアも違うので一度も見かけない日もある。接点はといえば、備品の購入を頼まれるとか、営業だけでは手が回らない書類作成を手伝うという細やかなものだった。

ところが事件は起きた。
三か月前の暑気払いにチャンスが訪れたのである。