「あいつは陰陽師だから、俺がいようがいまいが、どうってことない」

「――陰陽師。なんかすごい。で? なにを調べていたの?」
「ずっと人間の姿でいる方法」

「それで?それで? なにかわかった?」

「お前が俺とずっと一緒にいてくれるなら、その力を蓄えられるかもだ。そのネックレス、金目銀目を受け継いだお前とな」
そう言って又吉はウインクをした。

「これ?」
我が家の長女に、代々受け継がれているこの猫のネックレス。
「これに、そんな凄い力があるの?」

「資子は、猫の時の俺の声が聞こえただろう?」
「うん」

「あの時から、もしかして、と思っていたんだ」
「ええ? でもほら、アニマルコミュニケーターだって話ができるっていうし」

「それとは多分根本的に違う。上手く説明できないけど」

よくわからないが、どうやら私のネックレスは不思議な力があるのだそうだ。




***



その夜から、又吉は私の部屋にいる。

「だから言っただろう? 俺もバイトするって」
「えー、いいよぉ、うちにいてよ」

又吉には千年の間に溜め込んだ隠し財産のようなものがあるとかで、お金に困ることはないらしい。

「帰った時に又吉がいると、なんか安心するし」


「あ、じゃあ、お前んとこの会社でバイトするか」

「え? うん。うんうん、それいい!」




新しい年が明けて。

「南さん、おはようございます」
「おはよう」

――あっ。
開いたエレベーターに乗っているのは秋山さんひとりだけ。
天狗とわかったからには何の遠慮もいらない。
警戒しながらエレベーターから後退りしたが、グイっと手を引かれた。

「ひゃ」
「とって食ったりしねーよ」

「ど、どうだか」
キッと睨むが、秋山さんは余裕の笑みで、あははと笑う。
向こうもむこうで遠慮がなくなった。私を資子と呼び捨てにするし、愛想笑いもしないし堂々たるもんだ。

「おい、資子。猫又なんかとくっついてないで、俺にしろよ。毎日楽しいぞぉ」

そして相変わらず、陰でコソコソ女性たちを誑かしているらしい。