「そういうことだ。やつら天狗は時々ああやって人間に化けて、気晴らし程度に悪さをするのさ。あいつは白峰ってやつで天狗の中では小物だよ」

「そうなんだ……。でも、なんかわかる。秋山さんと目が合うと、すごく吸い込まれるような感じになるの」
「でも資子、お前はたいしたもんだな、白峰の魔力を跳ね返していたぞ」

「えっ? そうなの? そんなことしてた?私」
「ああ、"ごめんなさい"って断っていただろう? 普通の人間なら断れない。あの目の魔力にやられてな」

「なるほど……」

――でもあそこで又吉が現れなかったらと思うと、自分でも自信がない。


レストランを出ると、又吉は家まで送るよと付いてきてくれた。
外に出た途端、コートの襟を立ててマフラーですっぽりと顔の半分を隠すのが面白くて笑ってしまう。

「いままでも、そうやって人間になったりしてたの?」
「まぁ時々な。あの月」
そう言って又吉は、月を指差した。

「今はまだ、夜空に月が登っている間しか、人にはなれない」
「えっ、それは残念。でも、まだってことは、いつかはずっと人間の姿でいられるようになるの?」

「うん。まぁ、な」
月を見上げる又吉は、意味ありげな返事をする。

「ここしばらく世界中駆け回って、そのことを調べていたのさ」

「それで姿を見せなかったのね」
「ああ」

「飼い主さんは? 知ってるの?」