「どこにいくの?」

「最上階のレストラン。よかったな、キャンセルが出たんだってさ。あ、そういえばあれか、天狗がとった予約かもな」
フンッと又吉は鼻を鳴らす。

「又吉がレストランに電話したの?」
「あたりめぇよ。あちこちかけてどこもキャンセル待ちだったんだけど、今日になって三か所から電話があったぞ」

「又吉、電話まで出来るのね?」
「なんでもできるさ、お前は本当に猫又ってもんをわかってないな」

エレベーターで最上階に上り、レストランにはいると、又吉は戸惑う様子も見せず「予約をしたジンノウチです」と言って促されるままマフラーとコートを渡す。

慌てて私もコートを脱いだ。
又吉は白いシャツの上にジャケットを羽織っている。

予想通りその後ろ姿に、尻尾はない。

戸惑いながら、通された席は窓際だ。
キラキラと宝石のように輝く夜景が見下ろせる、冗談みたいな特等席。

「すごい」

なのに又吉はあまり興味がないらしい。
「夜は真っ暗なほうがいいのにな。これじゃあ星が見えねぇし」

「まぁもうそんなことを言って」と言いながら又吉を振り返ってハッとした。

彼の瞳は、又吉の特徴であるはずのオッドアイではない。
――やっぱり偽者?

「目か?」

「うん。どっちも茶色の瞳だから」

「人間にはコンタクトレンズってのがあるだろ。カラコンだよ。ゴールドとブルーじゃ目立つからな」