疑問だらけのまま言われたとおり秋山さんから離れて、又吉の声を出す男性のもとへと走った。

「もうちょっとだったのに、邪魔しやがって。――でも、その女は一体なに者だ? どうしてその首輪を持っている?」
「なに者でもねぇよ。とにかく資子に手を出すな、わかったな」

秋山さんは肩をすくめて背中を向けた。

「じゃ、行くぞ。ったく、天狗の野郎、ふざけやがって」

「えええ? もしかして、又吉なの?」

「ああ」

――うそっ!

又吉はスタスタと歩きだした。

背はスラリと高い。随分着込んでいるようだけれど、スリムな黒のパンツがよく似合っている長い足からみて、相当スタイルもいい。

私は慌てて走って追いかけて、又吉を名乗る男の顔を覗いた。
「あなた、本当に又吉なの?」

長い睫毛の奥からちらりと見下ろす目は、ハッとするほど魅力的で、耳が隠れるくらいの明るい色の髪はバサバサだけれど不思議なくらいかっこいい。

「そうに決まってんだろ」
「でもでも、どうみても人だよ? 猫じゃないよ? あっ!わかった又吉の飼い主さん?」

「ちげーよ。だから言っただろ、俺は猫じゃない、猫又だって」
「えっ? 尻尾は? 尻尾ないよ?」

「うるせーな。あとで見せてやるよ」

――どういうこと?
これはなに? なにが起きているの?

茫然としながら又吉についていくと、又吉はホテルの中にズンズンと入って行く。