「俺だけなのかな? そう思っていたのは。クリスマスのプレゼントも用意して、レストランの予約もして」

「あ、で、でも、私。み、見ちゃったんです」

「なにを?」

「あ……、秋山さん、他の人とキ、キスして」

ああ、と秋山さんは額に手をあてて天を仰いだ。
「それで誤解しちゃったのか。彼女とは別れた。俺は君が好きだから」

――秋山さん?

まただ。
秋山さんの瞳に見つめられていると、どうでもよくなってくる。

でも――。
又吉との約束を反故にはできない


――助けて、又吉!
心で叫びながら、ネックレスのチャームを握り、私は全力で声を振り絞った。

「ご、ごめんなさい、秋山さん! 私、約束があるんです!」

「よく言った」

――え?
その声は又吉の声だが、それにしてははっきりとした人間らしい声だった。
振り返ると若い男性がいる。

もこもこのコートを着込んで、マフラーに顔をうずめるようにしている彼は、クシュンとくしゃみをする。

「だから寒いのは嫌なんだ」

「ま、まさか……」

チッと秋山さんが舌打ちをする。

「お前、やっぱり人間じゃなかったな」

「うるせーな、猫又の分際で」

「資子、離れろ、そいつは天狗だ」

「えっ!? えええっ?」


――てんぐ? テング? 天狗???