きっと彼は、クリスマスイブを誰かと過ごすのだろう。それはもしかすると秘書課の小嶺さんかもしれないと思ったけれど、屋上で彼と会っていた経理部の女性ではないような気がした。

『クリスマスは一緒に過ごそう』
あれはどんなつもりで言ったのだろう。

落ちていくエレベーターのなかには、秋山さんのコロンの香りが微かに残っている。
上を向くと、ぎこちなく胸がきしんだ。

甘いはずのその香りが苦みとともに漂って、少しだけ目に沁みた。



外に出ると冷たい風が吹き抜けた。

センチメンタルな気持ちはその風が持っていってくれたらしい、街を彩るクリスマスの電飾に、自然と笑みがこぼれてくる。

又吉との待ち合わせの公園は、歩いて五分。
そういえば、人混みのなかにあんなに綺麗な白猫がいたら、みんなほっておかないだろう。今頃人気者になって、写真を撮られまくっているかも?

やめろよと怒る又吉が目に浮かぶようで、クスッと笑う。

――ところが。
角を曲がったところで、

「えっ?」
秋山さんがスッと現れた。

「約束していただろう? 俺と」

その目は、明らかに怒っている。

「あ、いえ、あの……」

「予約してあるんだよ、レストラン。もとちゃん、なにかあった? それとも他に好きな人でもできた? 俺はてっきり君と付き合っているもんだと思ってた」

――え? えええ?
ショックのあまり、ゴクッと喉が鳴る。