迎えたクリスマスイブ。

「あら、可愛い。デートかしら? 今日はクリスマスイブだものね」

南さんが、ひやかすように話しかけてくる。
それも当然だろう、いつも紺色かグレーの制服のようなスーツでいる私が、今日はちょっとばかりおしゃれをしているのだ。

「南さんも息子さんとパーティですか?」
「そうよー、トナカイの被り物をしてね」

「うわー楽しそう。私は猫とデートです」
「ええ?」

「ちゃんと、雄猫なんですよ」
正確には猫又だけど。

「猫と息子か。うふふ、楽しい夜になりそうね」
「はい」

とっておきのカシミアのコートに、ヒールの高い靴。白いふわふわのセーターに短めの黒いフレアスカート。グレーに白に黒という無難なコーディネイトだけれども、普段お洒落をしない私には、これくらいが無理なところ。化粧だってばっちりだ。
――又吉、褒めてくれるかなぁ?



仕事が終わって廊下に出ると、今日一番会いたくない人が向こうから歩いて来る。

秋山さんだ。

「お疲れさまです」
ドキドキしながら頭をさげる。

秋山さんは、「おつかれ」と通り過ぎて行った。

彼の顔には笑みが浮かんだかもしれない。でも多分、白い歯は見せていなかったと思う。

カツ、カツと靴音が離れていく。