開いたエレベーターの中にいるのは、秋山さんひとり。

思わずUターンしそうになったけれど、それも不自然すぎる。
いい大人なのだからと自分を叱咤し、意を決して中に入った。

いつになく狭く感じるエレベーター。
息苦しさで眩暈がしそうだった。

「ひさしぶりだね、もとちゃん」

背中にかけられたその声に、体がビクリと緊張する。

――もとちゃん?
まだ私のことをそう呼ぶんですか?

私の胸に渦巻く違和感を全く感じ取らないのだろうか。

「なんか、ごめんね」
そう言う秋山さんの声はいつもと変わらない。

「資料のこと、迷惑かけちゃって、申し訳なかった」

うっかり振り返ってしまって、秋山さんと目があった。

この人の瞳には悪魔のような魔力があって、うっかり目を合わせると心を鷲掴みにされるのに。
案の定、途端に胸が苦しくなり、私は慌てて俯いた。

「いえ……。課長を通してもらえれば」
もう二度と係わらないでくださいと言いたいはずなのに。そう言うのが精一杯だった。

「うん。今後はそうするよ。お詫びに明日ランチでもどう?」

――え?
迂闊にも喜びそうになってしまう。

でも、屋上での誰かとのラブシーンを思い出し、うっとりしそうになった心に鞭を打つ。
「ご、ごめんなさい、ちょっと……」

「ん? 別の日がいい? それなら明後日は?」