――クリスマスイブは、猫とデートかぁ。
でも、それも悪くない。
又吉とクリスマスツリーの下で話をする自分を想像すると、なんだか笑えてくる。
予想通り秋山さんからは仕事を頼まれることはないままだし、顔を合わせることもなくなった。
穏やかな日常を取り戻した私は、そのまま自分の席でお弁当を食べている。
又吉に来るなと言われたからというよりも、なんとなく人恋しくてひとりにはなりたくなかった。どうせアパートに帰ればひとりなのだ。話をしなくても、誰かがいるこの部屋にいたかった。
もしかすると、失恋で受けた傷が影響しているのかもしれないが、それには気づかないふりをする。
お昼休みになり、お茶をいれに給湯室にいくと南さんがちょうど電話を切ったところだった。
「じゃあね」
電話を切った南さんが、溜息をつく。
「三時で早退するわ。息子がインフルエンザになっちゃって。母が看てくれているんだけどね、ちょっと心配だから」
「えっ、えええー? 南さん、お子さんいるんですか?」
他に言うべきことがあっただろうが、なによりそこに驚いた。
「そうなのよ。シングルマザー」
南さんは笑って、スマートホンの背景画像になっている写真を見せてくれた。
男の子が満面に笑みを浮かべて、手を振っている。
「かわいいー!小学生ですか?」
「そう、まだ一年生」