お昼休み。
おやつを持って手ぐすね引いて待っていたのに、又吉は来なかった。

――こんな時こそ私を慰めてよぉ。薄情なんだから。

ブツブツ文句を言いながら外階段に通いつめ、又吉が現れたのはそれから一週間が経った暖かい日のことだった。

ボーっとしながらおにぎりを食べていると、トトトッという小さな音を立てて、又吉がやってきた。

「又吉ー、会いたかったよぉ。 久しぶり」

【泣いてないのか】
又吉は相変わらずの美しいオッドアイで、私をジッと見る。

「あはは、泣いてないよ、ありがとうね」

【散々泣いたにしちゃ、元気そうだな】

「だから、泣いてないってば」

【まぁ、そういうことにしてやるよ】
そう言うとゴロンと横になり、又吉はいつものように毛づくろいに勤しみはじめる。

「うすうす気づいていたから。私、利用されてるんだなって。でももう大丈夫、資料を届けた時、今後は総務部長か南課長経由でお願いしますってみんなに聞こえるように言ってきたし」

【へえ、よく言えたな。臆病者のお前にしては上出来だ】

「うん。がんばったよ。でもさ、又吉。私、おかげで男性不信になっちゃった。なんかもう誰かに優しくされても信用できないと思う」

【俺のことも信用できないのか? 俺も男だぞ】
体を起こして又吉が睨む。

「アハハ、そっか、又吉も男だね」

【あははって、失礼だな、お前は】

「ごめんごめん」