私の唯一の趣味は手芸。お弁当を食べ終わったあとは編み物をして過ごす。
単純作業に没頭できるのでいい気分転換になる。

「だめよ、遊ばないで」

白猫は毛糸が気になるらしく、ヒョイヒョイと手を出してくる。
どれどれそれならばと、小さなボンボンを作り、手すりからぶら下げた。

「はいどうぞ、あなたはこれで遊んでちょうだい」

でも、それはそれで気に入らないらしい。ボンボンを相手にいくつかネコパンチをして申し訳程度に遊んだ白猫は、相変わらず私が編んでいる毛糸のほうに手を伸ばそうとする。

「だから、こっちはだめよ。これは私がこの冬に着る大事なカーディガンなんだから」

このカーディガンがどれほど大切な物かをわかってもらうために、私は白猫に生い立ちを聞かせることにした。

「いい、よーく聞いてちょうだい。私の実家はね、すごい田舎なの」

東北と関東の境にある山間の村。猿と猪にひょこひょこ出くわすような、そんな田舎で私は生まれた。

「ここと違ってね。空気は澄んでいて煌めく星がよく見えるし、四季折々に衣替えをする山の景色が美しい、とても素敵なところなのよ」

両親はそこでペンションの経営をしている。
家族は優しい両親と、私の下に弟が二人と妹が二人、猫のミミと犬のタロー。

「賑やかで楽しい毎日だったけれど、裕福な暮らしではなかったんだ。小さなペンションだから、わんさかお客さんが来ることもないしね」

通信教育で大学を卒業した私が東京に出てきた目的は、収入を得るため。