「一身上の都合としか言わなかったけど。私の想像では、社内恋愛のもつれかもしれないと思ってる。あくまで想像よ、辞める少し前から泣いていたり、痩せちゃったり。聞いても何も言ってくれなかった」

「――そうなんですか」

社内恋愛。もし相手が秋山さんだったら?

私と同じような状況下にあったとしたら、充分に考えられる。彼にその気がなくて、一方的に夢中になってしまったとしても恋愛は恋愛だ。

――私も前任者も彼にとってただの都合のいいオンナ……。

そんな恐ろしいことを考えながら、廊下を歩いていた時。

「あれ?」

又吉が、廊下の隅にいた。

「どうして? だめよ、会社の中に入っちゃ」

近づくと又吉は逃げるように階段を登っていく。

「待って」

ハラハラしながら追いかけていくと、屋上へと出る扉の前へ出た。

「ま、又吉っ」

ゼエゼエと肩で息をしてヘロヘロになりながら見廻すが、なぜか、又吉の姿はない。

「どこ?」

もしかすると何かのはずみで又吉が屋上に出たあと、扉が閉まったのかも? そう思いながらそっと扉を開けた。

屋上には大きなボックスが立ち並んでいて、モーター音が響いている。

こんなところにいたら、戻れなくなっちゃうよ?と、又吉の姿を探しながら奥へといくと、モーター音に混じって、微かな声が聞こえてきた。

猫を見ませんでしたかって、聞いてみようか? そう思いながら、ボックスの向こう側を見た。


「……え?」

体を密着させて、熱いキスを交わしている男女がいた。

慌てて隠れて、ハッとした。

女性は背中を向けているが、男性は。

――いやまさか、そんな……。

今度は確認するために、そっと覗いた。