それでいい。その距離感がちょうどいい。そう思っていたのは嘘じゃない。
でも。
頬にキスされて、千五百円のランチで手懐けられて、すっかり恋の予感に胸をときめかせて。

――このままでいいの? 私。 期待しないで、便利屋になりきれる?

『クリスマスは一緒に過ごそう』
あれは、どういう意味ですか?

――秋山さんの本心が知りたいです。



悶々としたままクリスマスを迎えたくはない。
次の日、思い切って南さんに聞いてみた。

「南さん、秋山さんも以前は部長とか南さんに仕事を持ってきたんですか?」

「そうね、時々は。でも、有水さんが入る前は、有水さんのその席にいた女の子に直接頼んでいるようだったわ。彼、そういうところ姑息なのよ。私や部長に見つからないようにこっそり」
そう言って南さんは顔をしかめる。


――あ、そうなんだ……。

少しは驚いたけれど、でも、やはりと言えばやはり。
なるほどそうなのかと思う。

彼がこっそり頼むのは私にだけではなかったことが、なんだかとても納得できた。

「こっそり頼む理由って、なにかあるんですか?」

「本来自分ですべきことを頼むのよ。そういう仕事は同じ営業部の人には頼めないから、立場の弱いよその部署の子にこっそり頼むわけ、目立たないように」

お腹の底からざわざわと、嫌な考えが沸きおこる。
「あの……、私の前にいた人ってどうして辞めちゃったんですか?」