――指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます……。
「有水さん、小指痛いの? 大丈夫?」
「い、いえ。そんなことないです」
白昼夢から起こしてくれたのは、南さんだった。
――だめじゃん、私。
断ったはずが、結局またしても引き受けてしまった。
秋山さんから渡されたUSBメモリーをデスクの上に置き、やれやれとため息をつく。
――まいったなぁ。
それにしても……。
まさか、南さんが秋山さんを好きだったとは。
斜向かいの席に座る南さんを、パソコンの隙間からそっと覗き見た。
相変わらず素晴らしい集中力を発揮して書類を作成しているようだ。その様子からは、恋愛のれの字も見当たらない。
私の上司で課長の南さんはアラフォーの独身女性。
秋山さんよりも、何歳か年上になる。
『昔、彼女に告られたことがあって』
――南さんは、社内恋愛なんてもってのほか、っていうタイプだと思っていたんだけどなぁ。
言葉の端はしからそう感じていたのは、勘違い?
人は見かけによらないとは言うが、なにかと厳しい理由が本当に嫉妬だとしたら、なんだかとても残念に思う。がっかりだ。
でも、本当なのだろうか?
最近は『よくできているわ』なんて、褒められることも増えてきたのに。
いまも難しい顔をして書類を睨んでいる南さんが秋山さんに告白するということが、私の中でどうしても繋がらない。