にやりと秋月さんが目を細める。
「ねぇ、もとちゃん。それ、俺にくれない?」

――予感的中、って、いやいや嘘でしょう?

「あはは、冗談だよ」

「なんだぁ、びっくりしましたよぉ」

ああよかった。他の物ならいざ知らず、大好きな秋山さんでも、こればかりはあげるわけにはいかない。
「実はこれ、祖母から母へと代々受け継がれているものなんですよ」

「そうなんだ。へぇ」と言いながら秋山さんは手付かずのパンナコッタを差し出した。
「どうぞ」

そういえば秋山さんはパスタも残した。体調が悪いのだろうか?

「あ、ありがとうございます。もしかして、食欲ないんですか?」

「実はちょっと二日酔いで」
「あら」

「営業だと、どうしてもね」

さもありなん。彼のようにできる男は、付き合いも多いのだろう。

ありがたくパンナコッタを頂いていると、ふいに、甘い声が降ってきた。


「もとちゃん、クリスマスは一緒に過ごそう」


それは今日一番の、驚きの発言だった。

「誰かと約束あるの?」

「い、いえ」
ブルブルと高速で首を振る。

「じゃあ、俺が予約ね」

差し出された秋山さんの左手の小指。

私は震えそうになりながら、そっと、小指を差し出した。