全然大丈夫じゃないが、そうとは言えない。
「はい。大丈夫です」と答えた。

――南さんに内緒でこっそり残業するしかないかも。

「それは?」
「これは……営業からちょっと」

南さんが指をさすのは、秋山さんに頼まれた資料づくりだった。そんなところもさすが南さん、目ざとく見つけ出す。

「有水さん、昨日もサービス残業していたでしょ」

先手を打たれた。
南さんが先に帰った時だけ、サービス残業をしていたが、全てお見通しということなのだろう。

「……すみません、要領悪くて」

南さんは、言いかけた言葉を飲み込んだように一度口を閉じて、「お人好しも大概にしないと馬鹿をみるわよ」と言う。
「営業からの業務は、直接受けちゃだめ。よく見てご覧なさい、みんな総務部長か、課長の私に持ってくるでしょう? それは総務との仕事の兼ね合いをみて断るべき事と出来ることを判断するためよ。とにかく私から営業部長に言っておくわ」

「あ、いえ、あのそれは、す、すみません、私から言います、なので部長には」
そんな大事になったら、秋山さんが叱られちゃう。それは避けたい。

「……わかったわ。でも、今回だけよ」
「はい。すみません」

仕事が終わったのは、結局九時だった。総務の仕事だけなら定時で終わっていたはずなので、出勤簿には書けない。秋山さんの仕事は、あくまで私の個人的なサービス。
でもそれも今回で終わりだ。南さんに釘を刺されているのだから。

秋山さんが喜んでくれるなら、これくらい全然構わないのになぁ、と思う。
でももう、それはできない。話が大きくなったら、かえって秋山さんを困らせることになる。

――次に頼まれた時は、ちゃんと言わなきゃいけないな。

そう思うと、ちょっと気が重かった。