「失礼します」と声をかけて中に入ると、図書館のように並ぶ高い棚の間に、社員がひとりいた。
そこを通り過ぎ、更に奥に進むと――。

いた。
資料を手にした秋山さんが私を振り返り、ニッと口角を上げて目を細める。

他にも人がいるので声は出せない。
私は込み上げる喜びを隠すように唇を噛んで奥へと進み、秋山さんにそっと紙袋を渡した。

密やかな感じが体の芯を揺さぶるようで、ドキドキと胸が鳴り、心が熱くなる。

無事紙袋を渡し通り過ぎようとした時、クイッと手を引かれた。

振り返りざまに落ちてきたのは、秋山さんの唇。

頬にチュとキスをした秋山さんは、耳に息を吹きかけるように「ありがとう」と、囁いた。

微かな音を立ててハートのイヤリングが揺れる……。

――え?
ええっ!?


爆発しそうな心臓を抱えるようにして資料室を飛び出し、逃げるように席に戻った。

――い、いま何が起きたの!

二十五才にもなって頬にキスですら初めてのこと。小学生並みの恋愛経験しかない私には、刺激が強すぎた。

彼の唇が触れた頬が、熱い。
あぁ、まるで秋山という焼印を押されたみたい……。

――秋山さん。


「どうかした?」

そんな余韻に浸る間も与えてくれないのが南さんだ。
怪訝そうに首を傾げて、私の顔を覗きこむ。

「は、はい?」

「なんだか顔が赤いみたいだけど? 熱?」

「あ、いえ、なんでもないです。ちょっと急ぎ足で歩いたもので……」

「そう? じゃあ、これお願い。付箋の箇所を修正して、タイトルとインデックスをつけて、今週中に二十部ね」

「は、はい、わかりました」
――って、え? そんなに?
待てよ。今週中って、あと二日しかない。

「大丈夫?」