猫と恋は、ときどき優しい


「又吉の言うとおりだったよ。昨日は怒ったりしてごめん。あの招き猫、秘書課の小嶺さんが持ってた」

又吉は、そらみろとは言わないし、怒りもしなかった。

ただ、【あの男、信用しないほうがいい】
そう言って、私をジッと見つめる。

「うん……」

【泣くなよ】
「泣いてないよ」

【さっさと忘れろ】と又吉が言った瞬間。

――えっ?

その時ほんの一瞬、又吉の顔が人間の男の顔に見えた。
と、同時に眩しさに目が眩む。
隣のビルのガラスが強い陽射しを反射したのだろうか?

目を瞬きながら、だんだん私は又吉に謝ったことも忘れて腹が立ってきた。

「な、なによ、わかったようなこと言って、猫のくせに」
【馬鹿にすんな。俺は猫じゃない、猫又だ】

「ネコマタ? なにそれ」

【ほら、よく見てろよ】

又吉は後ろを向くと尻尾をくるくると回転させる。すると、みるみる尻尾が分かれて、ふたつになった。
ふたつに割れた尻尾をユラユラさせて、私に見せつける。


「え?! すごい」

【だから言っただろ、俺は猫又なんだよ】

又吉はそういうと、尻尾をひとつに戻す。

「又吉、あなたいったい何者なの?」

【だから、猫又だってば】




さっさと忘れろと又吉には言われたけれど、つい考えてしまう。
その日の夜も、次の日になっても、ふとした瞬間に思い出してしまう、秋山さんと小嶺さんのこと。

――あの時、喜んでくれたように見えたんだけどな……。

指先で摘まんだストラップをユラユラさせた秋山さんの笑顔はなんだったのだろう?
愛想笑い? 営業スマイル?

あの日、秋山さんに渡したのは仕事帰りで、小嶺さんが持っていたのはその次の日の午後。ということはその日の夜に秋山さんと小嶺さんが会ったということだろうか。