なので誰に気兼ねすることもなく、風が強かろうと雨さえ降っていなければ構わずに隠れ処に向かった。

「又吉、今日もまた南さんに怒られちゃった。きっと、私のこと嫌いなのね。同じことをしても私ばかり怒られるんだから」

話を始めると又吉はよくしゃべった。

【お前の話を聞いている限りでは、南は資子が思っているような意地悪な人じゃないと思うぞ】

又吉は驚くほど人間のことをわかっているし、説教するところはまるでろうたけた人生の先輩のようである。

「ええ? どうしてよ」
南さんは私の上司で女性の課長だ。仕事に無駄がない人で、無駄の多い私はよく叱られる。
『時間に余裕がある時はそこまでやってもいいけど、いまは時間がないのよ? 臨機応変にやらなきゃだめよ。何度も言うけど』
そう注意されるが、私にはどうもその臨機応変の加減がわからない。

「具体的に言ってくれたらいいのに。ほんと、わかんない」
【それは経験だろ。資子だってそのうちわかるさ】

「でも、あれもこれも南さんみたいに一遍にはできないわ。営業部から頼まれている資料作成もあるんだから」
【じゃあ営業部の仕事を断ればいいじゃないか。南にはそう言われているんだろう?】

「だめよ。だって……秋山さんに頼まれたんだもの」

又吉は呆れたように大きく口を開けて、これみよがしなため息をつく。