お昼休みのオフィスビル外階段。

三階の踊り場になるここは、他の階より少し広くなっている。
隣接するビルからも少し陰になっているので、以前は密かな喫煙所になっていたらしいが、禁煙が進んだ今は来る人もいない。

私だけの秘密の隠れ処だ。

十月の色なき風は爽やかで、ときに温かく優しい。
夏は暑くていられないし、寒すぎる冬も我慢比べになってしまう。この隠れ処ランチを謳歌できるのは、桜香る春先と今の季節だけ。

見上げた空は清々しいほどに青く晴れ渡っている。高い空に届けとばかりに手をあげて、大きく伸びをした。

――ああ、気持ちいい。

手すりに肘をついて、ひとしきりぼんやりする。
心の癒やしに満足したところで、隅に置きっぱなしになっている小さな折りたたみ椅子を広げた。

タオルを敷いて腰を下ろし、
「また叱られちゃったなぁ」
とぼやきながら肩を落とす私は、有水資子(うすい もとこ)二十五歳。田舎から上京して二年になる独身女子。
目下の夢は一年契約の契約社員という立場を卒業し、正社員になること。

でもこの調子なので、当分夢は叶えられないだろう。やれやれとため息をつきながら、バッグからハンカチでくるんだ包みを取り出した。
膝の上で広げたのは、ゆで卵ひとつと小さなおにぎり三つという定番の手弁当。
落ち込んでいても普通にお腹は空く。腹が減っては戦は出来ぬのだと自らを励まして、アルミ箔に包まれているおにぎりを手に取った。