お茶を飲んだ後、片づけをしていたりするとすぐに1時間が経過した。
カクリヨに来て以来、本当に濃い一日を過ごしているように思う。
先ほど食べたのがちょうど昼食の時間だったのだろう。まだ午後から時間はある。
風花に案内をしてもらうために惟子は外へと出た。
それと同時に風花のドアが開いたのが解り、惟子はそちらへと足を進めた。
「お絹、さあいきましょう」
ニコリと笑った風花に、惟子は小さく頷いた。
来た道を今度は下る。
ゆっくりと階段を下りながら、風花は周りの竹林に目を向ける。
「ここは中の上って呼ばれているわ」
「中の上?」
(成績表みたいだわ)
きっと中の中でも少し小高い所にあるからだろう。
「そう、住居にあがる階段だから誰でも入ることはできないようになっているの。お絹もさっき九蘭様に登録してもらったでしょ?それをここに」
階段を下りきった所に、何やら石碑みたいなものがあった。
来たときは気づかなかったが、そこに手をかざさないとこの上へは上がれないようになっているようだ。
言われた通りそこに手をかざすと、ポワッと石碑が光るのがわかった。
「すごいわね。どうやっているのかしら?」
見た目は昔の中国のような感じだが、とてもハイテクにも思える。
惟子は自分の手も光ったのを見て、手のひらの裏表を見つめた。
「何をいってるの。妖力に決まっているでしょ」
呆れたように言いながら、風花は歩き出した。
「妖力」
自分にもやはりあるのだろうか?呟くように言った惟子に、風花はくるりと振り返った。
「私はギリギリだったけど、九蘭様が自ら連れてきてすぐに中の上に住まわすぐらいだもの。お絹の妖力はすごいんじゃないの?」
え?
特別・・とは言われているが、自分にそんな力があるのだろうか?
人間だと思っていたが、やはり違ったのだろうか?
そんなことを思いつつ、惟子は自分が立ち止まっていることに気づき、慌ててまた歩き出していた風花の後を追った。
「九蘭様にはそういうのがわかるの?」
九蘭について少しでも情報が欲しくて、ちょうどよく話題にでた九蘭の話をする。
「そうよ。九蘭様は黒蓮様の幹部で、すごい力をお持ちの方よ。まあ、いろいろな噂があるけれど……」
「いろいろな噂?」
言葉を濁した風花に惟子は距離を詰めると問いかけた。
「あのね」
風花はキョロキョロと周りを見渡すと、惟子の耳に口を近づけた。
「ここだけの話、黒蓮様の妾じゃないかって……」
「妾?嫁じゃなく?」
そうだ、昔自分を嫁にといっていた黒蓮だったが、サトリの嫁になったことできっと諦めたはずだろう。
あれだけきれいで、妖艶な人なら妾ではなく、嫁でもいいのではないだろうか?
そんなことを思いながら、風花の返答をまつ。
「まさか、黒蓮様にはきまったお嫁様がいるって何かのときに聞いたわ」
「いらしゃるのね」
少しホッとして言葉を発した惟子だったが、風花は上の御殿に目を向けながら首を傾げた。
「でも、私がここにきてずいぶん経つのだけど、一度も見たことがないのよね『光明のお嫁様』」