「ねえ?ここでお魚焼けるのよね?」
「ああ、こうやって」
そう言ってボタンを押すと、青白い炎が付いたのがわかった。
「あら、青白いのね」
呟くように言った惟子に、初めから説明してくれていた蛙が周りに炭のようなものを置く。
「妖火で焼くと美味しくふっくらと焼きあがるのさ」
「へえ、妖火ね……」
何やら色々と便利そうだなそう思いながら、惟子はもう一品作ることにした。
刺身に焼き物ときたら、揚げ物だ。
三枚におろし、一口大にきったアジに片栗粉をまぶし、カラリと上げる。
揚げ物をする場所もきちんとあり、魚料理じゃなければきっときちんとした料理を提供していたのかもしれない。
色とりどりの野菜から、玉ねぎ、ピーマン、ニンジンを千切りにして、醤油、酢、砂糖、ニンニクを入れてさっと火を通す。
上がったアジを盛り付けて、そのたれを掛ければジュと美味しそうな音と匂いが厨房に広がる。
(本当は隠し味にコンソメを入れると、少し洋風ぽくなるんだけど、今は定番がいいわよね)
そう思うと、皿にの周りに飛んだたれをきれいにふき取ると、綺麗に野菜を盛り付けた。
「うん、美味しそう。これもお願いね」
給仕をしている蛙に声を掛けると、惟子はフッと息を吐きだした。
「ねえ、お魚は食べられるの?」
惟子は一息つくと、余った南蛮漬けを蛙達に向けた。
「食べれることは食べれるさ。ただどうやって処理をしていいのかを知らないだけさ」
なぜか得意げに言った蛙に、惟子は南蛮漬けを勧めてみる。
「美味しい!」
その声に、料理長までもが箸を伸ばしているのを、横目に惟子は少し微笑んだ後すぐに表情を硬くした。
(さあ、言われた通り料理を作ったけど、どうやって弥勒に近づくか……)
厨房からでて、座敷の様子をチラッと見ようとした惟子の目には、慌てたガマ蛙が走って来るのが映った。