そのまま惟子は、引きずられるように店の奥の厨房へと連れてこられた。
広い部屋を見回すと、角でぶるぶると震える蛙たちがいて、惟子は目を丸くする。

適当に黒蓮の部下とやらとお酒を飲んで、サトリの情報を聞こうと思っていた惟子だったが、そうはうまくがことは運ばなさそうだった。

(こんなことしている暇はないんだけどな……)

惟子はため息をはきつつも、知っているあやかしもいなくなったことから、顔を隠していた布をとり、そこでうずくまる蛙に声を掛けた。

「ねえ、あなたたち」

惟子のことも怯えるような目で見るその蛙に、諦めたように息をつく。

意外にもキッチンは近代的だ。薪で火でも焚いているのかと思ったが、コンロにシンクもある。

「ねえ、何を出してあんなに怒らせたの?生卵だけ?」
惟子は腰に手を当てると、台の上におかれていたたくさんの色とりどりの野菜に目を向けた。
この野菜類からしても、生卵しか出せなさそうな感じではない。

「出せなかったんだよ」
「え?」
何やら呟くように言った蛙に、惟子はしゃがむと視線を合わせた。

「俺らにはできなかったんだ。弥勒(ミロク)様たちが持ってきたものを調理することが」

「何を持ってきたのよ?」
ようやく話が理解できて、惟子は立ち上がった。
持ち込みで料理をするように、食材を持ってきたのだろうが、この蛙たちには扱うことができなかったのだろう。

「それだよ」
その方向へ視線を向けることなく、蛙は指をさした。
そこには四角いつるりとした箱があり、惟子はそこへと足を向けた。

「この箱冷たいのね」
氷のように冷たい白いその箱に触れると、惟子はパカリと蓋を開けた。

「あら。これは……」
呟くように言った惟子は中を覗いた後、蛙たちを見た。

「俺たちは魚が苦手なんだよ」
その意外な言葉に惟子は目を丸くした。おたまじゃくしは魚のようなものではないのだろうか?
そんな事を思うが、それを声にしたらまた話が長くなるような気がしてやめた。