「こちらは戦う気などないし、丁重におもてなしをしていたのに。いきなり榊様含め、そのあたりにいたものに手を出したのよ。修練様は軍事の専門の方で、力は半端ないの。妖術で相手の力を封じることができるの。油断すれば、榊様でさえ力を封じられる」

それほどまでにすごいあやかしが敵にいると言うこことに、惟子はゴクリと唾を飲み込んだ。

「そこへようやくサトリ様がお戻りになったの。でも……」

「でも?」
言葉を濁したお琴に、惟子は不安げな表情を浮かべた。

「いつものサトリ様なら、一瞬で修練ぐらい倒せるのよ。でも、修練が何かをサトリ様に言って何かを見せたような気がするのよね。その一瞬の隙に、何か力を封じるような鎖で修練はサトリ様の力を封じてしまって……。そのまま連れ去ってしまったの。それが私が見たサトリ様の最後よ」

あの日、そんなことがあったとは、それも知らず私はただのんびりと過ごしていたことに、惟子は腹が立った。

なにを言われてサトリは捕まったのだろう?
どうして?
その言葉がグルグルと頭を巡るが、どうしようもない。

「しばらくはサトリ様を助けにかなりの部隊が向かったの。そこから先は私にわからないのよね」
小さくため息を付いたお琴に、惟子こそ大きなため息を付きたかった。

(このままでは何も変わらないわよね)
惟子はしばらく考え込んだ後、お琴をみた。

「ねえ、さっきのあのガマ蛙の店」
「ああ、大黒屋?」
お琴は野菜などを売る店で、ピーマンや玉ねぎを物色しながら返事をした。
ごくまれにみたことのない商品が並ぶが、野菜はほとんどみたことのあるものばかりだった。

「大黒屋どんなお店なの?」
「どんなって、男の人が楽しくお酒を飲む場所よ。飲むだけよ」
もう一度念を押すように言ったお琴に、惟子も微笑んで頷いた。
「ねえ、お願いがあるのだけど」
「なに?」
手に持ったトマトを店主と安くしろだの交渉をしていたお琴は、惟子を見ることなく答えた。
「私をあそこの店に紹介してくれないかしら?」
その言葉に、お琴の持っていたトマトが地面へとコロコロ転がらる。

「あら、お琴トマトが……」
そう言って手を伸ばして惟子はトマトを取ると、お琴の手に戻した。

「お絹……あんたどうしちゃったのよ?」
啞然としながらお琴は惟子に問いかけた。
「健全なお店なんでしょう?」
「健全っていっても、お酒を出る場所だし、酔っ払いも多いし今あんたが働いているところに比べたらひどいものよ」
きっとスナックのような場所なのだろうと惟子は想像していた。

もちろん、水商売の経験などないが、一応カフェのオーナーである惟子としては、接客業にも慣れているし、サトリの情報が入って来るのではないか。
そんなことを惟子は考えていた。