「ねえ。サトリ様はどこへ行ったのかしら?」
にぎやかな提灯が並ぶ道を歩きながら、惟子は核心を付いた質問をした。
「ああ、お絹はあの日、里帰りしていのね」
表情を暗くしたお琴は、小さくため息を付いた。
「あの日、サトリ様が少し城を離れている間に、とうとう修錬が現れたのよ」
「修練って?」
「修練は黒蓮の右腕のぬらりひょんで、ものすごい力をもつ上級あやかしよ。そんな奴がサトリ様も天弧様もいない日に現れたから城は大パニッで……」
その日はもしかして惟子のところにいたのかもしれない。
そんな確信を持ちつつ、惟子は話の続きを持った。
「土蜘蛛の老中の榊様がお相手に出られたんだけど、お嫁様を出せの一転張りだったの」
(私を?)
惟子は驚いて目を見開いた。
「どうしてお嫁様なの?」
「どうしてって……」
その答えはよくわからないと言った表情のお琴は、小さくため息をはくと空を見上げた。
「もちろん、お嫁様を見たこともないし、本当に存在するかすら知らない私たちとしては、嘘もついていないし、知らないとお答えしたの。腐っても相手は天下の時期妖王さまの使いだからね」
自分の存在はやはり、この世界では曖昧で、存在すら不確定な存在だと惟子は思い知る。
嫁という形すら危ういのかもしれない。
現世でただ守られていただけの自分だったことに、惟子は改めて気づいて自己嫌悪に陥る。
「それで?」
話の続きを促すように、惟子はお琴に声を掛けた。