「お待たせ。ねえなあに? 顔なんて隠して」
不意に聞こえた声に、惟子は慌てて石を隠すと言葉を発した。
「調子を崩した時に、顔に出来物ができて……それに記憶も曖昧に」
適当な言い訳をした惟子だったが、その答えなど大して気にしていないように「ふーん」とだけ言った。
改めて顔を見ると、茶色と白の髪の毛に、色白の顔肌、目はキリっとしていて、さながら猫のようだ、いや、ショートカットの髪の上にはっきりと見える耳は紛れもなく三毛猫のようだった。
もちろんそれ以外は惟子の着ている着物と、色違いのようなものを着ていて、年齢も同じぐらいに見えた。
「行くわよ」
猫娘を見ることに集中していた惟子は、その声にハッとして足を踏み出した。
迷いなく歩いていく、猫娘の後ろを急いでついていくと、城の外に出たようだった。しかしまだまだ敷地が続くようで、いくつもの屋敷や蔵、小さな小屋そのような建物も目に入った。
しばらく歩くと、敷地の端に着いたようだった。
「お絹! こっちよ。本当に何も覚えていないんだね」
呆れたように言って、腕を腰に当てた猫娘は小さくため息を付くと、持っていた籠を下に置いた。
そしてなにやら、鍵のようなものを穴にいれたと思えば、ぎーという音とともに、扉が開き、拮橋が降りるのがわかった。
「サトリ様がいない今、ここから出入りするように言われたでしょ? 侵入者が来たら大変よ。すべての門はいま閉鎖されているのだから」
その言葉に納得すると、惟子は小さく頷いて猫娘の後を追う。
しばらく歩くと、真っ赤な赤い橋が架かった川があり、その向こうは今までとは別世界のような、にぎやかな場所だった。