「ああ、死ぬかと思った」
「あら? あやかしも簡単に死ぬのね」
ふふっと笑いながら言った惟子に、蛙は今度はゆっくりと米を口に運びながら口を開いた。

「あたりまえだろう。人間ほど弱くはないけどな」
「そうなの? でもさっきは雪女の冷気にやられたんでしょ?」
惟子も今日は朝ご飯を食べていないことを思い出して、おむすびを一つ手にした。

「雪女さまと言え、呼び捨てなんかにしたのがばれてしまったら、氷漬けにされてしまうぞ!」
キョロキョロと怯えるように周りを見渡す蛙に、惟子は肩をすくめた。

「へえ。そんなにすごいあやかしなの?」
(うん美味しい)
おむすびを一口入れると、ゆっくりとアジの味を確かめるように惟子はゆっくりと咀嚼する。
「そうだよ。この屋敷をしきるお局だよ。サトリ様のお手伝いをしている一人だよ」

「お局って……どんなことをするの?」
あやかしでもお局とかあるのかと惟子はおかしくなった。

「サトリ様のスケジュールの管理や書類を渡したりとか……」
その言葉に、惟子はポカンとした。まるでそれはサトリが社長だとすれば、雪女は秘書のようなものだろうか?

「まるで会社みたいね」
呟くように言った惟子に、蛙は怪訝な表情を浮かべた。
「会社ではないな。お役所のようなものだよ」
「へえ? そうなの? ここはそう言うところなのね?」
会社という言葉が通じたことに驚きつつも、惟子は蛙に問いかけると、小さく頷き表情を暗くした。

「でも、今サトリ様がいないから……」
そうだ。それだ。今はサトリに会うために来たのだから、こんなところでのんびりしているわけにはいかない。
惟子はそう思うと、残っていたおむすびを全部口に入れた。