「あら? 生きたエサしか食べないの?」

ここに来る前、自分の部屋でふと小さい頃の動物図鑑が目に入り、動物が多いあやかしを知るのに、何か役に立つかもしれないと、スーツケースに突っ込んだ図鑑がさっそく役に立ちそうだ。

惟子は蛙のページと、震える蛙を交互に見た。
「そんなわけないだろう? 俺様をそこらへんの蛙と一緒になんかするな! 
俺はこの屋敷で働かせて頂いている、有所ある蛙だぞ」
まだ怒る元気があるのだと、惟子はホッとすると、落ちた弁当箱からおにぎりを手に取ると蛙に差し出した。
「生きてはいないけど、有所ある蛙は食べられるのでしょ? 食べると多少はエネルギーが出て温かくなるって聞いたことがあるし……」

言いかけている途中で、蛙は惟子からおむすびを奪い取ると、一心不乱に食べ始めた。
「ねえ、そんなに急ぐと喉に詰まるわよ? お茶もいる?」
言った先から、のどにおむすびを詰まらせて蛙は目を白黒させる。

「ほら、いったじゃない」
そう言いながら、惟子は水筒からお茶を注ぐと蛙に渡した。
ごくごくと喉からすごい音を鳴らして、蛙はそれを飲み干すと大きく息を吐いた。