てんが先にゆっくりとあの扉をあける。
あっ、と思った時には、昔、川の中に飲み込まれていた時の感覚が惟子を襲った。

水はもちろんないのだが、暗い闇に吸い込まれるような感覚に惟子はギュッと目を閉じていた。

「惟子様‼︎ こちらを」
そう言われそっと視線をさまよわせれば、てんのふわふわのしっぽが目に入り惟子はギュッとそれに抱き着いた。

どれぐらいの時間がたったのか、到底検討もつかなかったが、ドスンとしりもちをついたことで、どこかに着いたのが解り、惟子はホッと息を吐いた。

「あれ? てんちゃん?」
まわりを見渡してもどこにもてんの姿はなく、惟子は焦りつつその場所を確認するように周りを見回した。

一見、どこにでもありそうな6畳ほどの和室で、特になにもないその部屋は惟子意外誰もいない。

(隠世に無事に着いたのかしら)

不安になりつつも、ここにいても仕方がないと思い、惟子はそっと外へとつながっていると思われる襖に手をかけた。