大人が誰もいない児童生徒の自宅に、子どもをそのまま一人にしておくわけにもいかない。

「さぁ、おいで」

俺は、その子を自宅に招いた。

遠慮がちな手を引いて、両親の待つ台所へと入る。

「これが、先生のお父さんとお母さんだ。仲良くできるかな?」

父と母は、相変わらすテーブルに座っていて、じっと俺たちを見ている。

その視線に驚いたのか、子どもが後ずさった。

俺は離れようとしていくその手を、しっかりと握りしめる。

「大丈夫だよ、こう見えても、怖くはないんだ。君さえちゃんとしていれば、なにも言わないし、なにもしない」

俺は、彼に向かって微笑む。

「まぁ、緊張するのも無理はない。だけど慣れてしまえば、それほど悪いものでもないよ」

握りしめていた彼の手を離した。

「さぁ、お腹すいたね、晩ご飯にしよう。今日は君のリクエストのハンバーグだよ。手伝ってくれるかな?」

俺が流し台に立ち、キッチンの包丁を持ちあげる。

彼は素直に俺の横に並ぶと、手伝いを始めた。

「いただきまーす!」

作った四つのハンバーグ、つけあせのニンジンとホウレンソウの炒め物を、それぞれの皿に盛りつける。

お味噌汁と炊きたてのご飯も並んで、これ以上ない完璧な夕飯が出来た。

「みんなで食べると、うまいよな!」

俺がそう言うと、子どもはぎこちない笑顔を浮かべる。

「父さんと母さんも、あんまりこの子を困らせるなよ」

一応クギを刺しておく。

こうしておけば、少しは安心できるだろう。

「今日は学校でね、父母会の保護者の方が来校されていて、校庭の花壇の植え替えをしていたんだ。それでね……」

俺の雑談に、子どもも少しずつこの環境に順応し始める。

うん、やっぱりこの子は賢い子だ。

この家においておいても、大丈夫だろう。

久しぶりの楽しくにぎやかな食事を終え片付けを済ませると、彼は素直に俺の用意した部屋の布団に入り眠りにつく。

台所の両親にそっと目配せをしてから、俺も二階の自室に上がり、眠った。