職員室に戻った俺は、早速今日の日誌と宿題プリントの作成に入った。

「先生のクラスは、また話し合いをされてたんですか?」

一組の、学年主任のおばさん先生がのぞき込む。

「えぇ、おかげで授業の進行が大変ですよ」

へらへらと笑ってみせると、彼女は難しい顔をして隣に座る。

「先生の、生徒指導は本当に熱心ですね」

手のかかる面倒な児童を、俺たちのような若手に全部押しつけておいて、何が指導熱心だ。

だったらもっと、楽なクラス編成にしてほしい。

「まぁ、それが学校教師になった、醍醐味の部分でもありますんで」

俺は、宿題プリントの制作に取りかかるフリをする。

実際はまとめて作ってある俺の秘伝の書を、そのまま印刷して使えばいいようになっているので、それほど手間と時間はかからない。

そういった努力もしないで、生徒指導を放棄しているのは、どっちの方だ。

おばさん先生はまだ、俺の横で何かを言いたげにもぞもぞしているが、それを無視する。

「先生、お呼び出しですよ」

副校長の声かけで振り返ると、職員室の前に俺のクラスの生徒が来ていた。

「先生、ちょっといいですか?」

先ほど殴られた左の頬が、わずかに青く変化している。

「あぁ、いいよ。ちょっと待ってて」

俺はすぐに席を立つ。

助かった。

長引きそうな学年主任の小言から、これで逃れられる。

俺はその子どもを連れて、生徒指導室に入った。

入り口の扉に鍵をかける。

「どうした」

彼はじっと黙ったまま、うつむいている。

「うちのお母さんが、ずっと帰ってこなくて、お父さんもいなくなって。今日は朝から変な人たちがたくさん来て、今日は絶対に学校に行きなさいって」

「うん。よく来たね。えらいよ」

俺は彼の両肩に手を置いた。

しっかりと視線を合わせて、その顔をのぞき込む。

「大丈夫。先生が、ちゃんと守ってあげるからね」

この子どもの相談を受けた時から、俺は心に決めていた。

彼の母親は、昨日遺体で見つかったと、刑事から聞いたばかりだ。