「うちで療養中です。体が悪いので」

俺の両親は立派だ。

素敵な夫婦だ。

二人とも教師で、俺は彼らを尊敬しているからこそ、同じ教師になった。

父も母も、働きながら苦労して俺を育ててくれた。

親の愛情は絶対であり、俺はそれを全て受け取って大きくなった。

それの何が悪い?

彼らの注いでくれた愛情のおかげで、今の俺がある。

そんな両親を、どうして裏切ることが出来るだろう。

俺はちゃんとした、まともな家庭に生まれ、そこで育ち、正直で、誠実な、しっかりとした、立派な大人になった。

今の俺があるのは、両親のおかげだ。

これほど分かりやすく、公明正大な事実が、他のどこにある?

「申し訳ないのですが、令状をとって、先生のご不在中、児相と一緒に家宅捜索に入らせていただきました。先生のお預かりしている子どもさんが、素直に鍵をあけて、我々を中に通してくれましたよ」

あの子はそういう子だ。俺は拳を握りしめる。

「とてもいい子でしょう?」

俺の担当するクラスの子どもたちは、みんな素直でいい子たちばかりだ。

誰一人として問題を抱えたような子はいないし、もしクラスで何かが起きても、全員で一致団結して助け合い、協力ができる。

一人一人が明るく元気で、真っ直ぐに育ち、個性を生き生きと伸ばせる、俺の素晴らしいクラスなんだ。

「えぇ、本当に」

男は渡されたばかりのメモのような紙切れを、ずっと気にしている。

そんなに気になるような内容が書いてあるのだろうか。

だけど今は俺と話しているはずなのに、これは随分と失礼な態度ではないだろうか。

「先ほどから、何をごらんになっているのですか?」

「家宅捜索で見つけたものの、簡単なメモです」

彼はそれを、俺に見せようかどうしようか、迷っているのだろう。

だけど、自分の家の中の様子なんて、俺が一番よく知っている。

台所に座る両親の姿を写した写真が、ちらりと見えた。

父さんは、静かに眠っている。

母さんも今は、穏やかに眠っている。

俺はただ、自分の大切なものを守りたかっただけなんだ。