寝子池神社の鳥居をくぐると、木々がサワサワと音を立てる。
参拝客はおらず、今日も静かで穏やかな時間が流れていた。

「春宮さん！」

俺は奥まで届くように声を上げる。
しんとした空間に、俺の声だけが通り抜けていった。

「春宮さん。いるなら出てきてほしい。」

辺りを見回しても、何もない。
野良猫がポツンポツンといるだけで、こちらをちらりと見ては興味なさげに寝そべっている。

本殿で鈴緒を振る。
ガランガランと乾いた音が社の中まで響いた。

「もう一度でいいから、春宮さんに会わせてください。春宮さんは俺に伝え終わったかもしれないけど、俺はまだ春宮さんに伝えなきゃいけないことがある。」

願い事を声に出して言う。
春宮さんがどこかで聞いているんじゃないか、聞いていてくれという強い思いがそうさせた。