「土橋くんは、春宮さんのこと大事にしてね。」

突然、香月さんの口から春宮さんの名前が出て、俺は目を丸くした。
そんな様子を見て、香月さんは首を傾げる。

「あれ?春宮さんと付き合ってるんじゃないの?」

「いや、その…。」

歯切れの悪い俺に、香月さんは「ごめん」と甘く笑った。

「俺も春宮さんと話がしたいんですけど、何て言うか会ってもらえなくて。」

「そうなんだ。お互い、苦労するね。」

香月さんは目元で笑う。

「私もさ、意地になっちゃってる部分があるんだよね。自分が一歩歩み寄ればすむ話なのにさ、やっぱり彼から行動おこしてほしいっていうか。そういう理想?みたいなのを勝手に押し付けてるのかも。」

あんなに冷たい冷気を放っていた香月さんだったけど、今は全然そんなことはない。
むしろ、稲垣さんのことが大好きなんだという気持ちが伝わってきて、くすぐったい感覚になる。

「春宮さんも、私みたいに意地になってるのかもね。土橋くんがグイグイくるの、待ってるのかも。」

「…そうだったら嬉しいですけど。」

香月さんの言葉が胸に響く。

このままあきらめてはいけない。
春宮さんにもう一度会いたい。
俺は決意を新たにした。