春宮さんには会えていないが毎日は嫌でも過ぎていくわけで、今日も夕方からバイトだ。

「おはよーございまー…。」

朝でも夜でも、バイト先へ来たときの挨拶は「おはようございます」なのだが、俺が挨拶しながらパントリーの扉を開けると何やら不穏な空気が漂っていて、思わず口をつぐんだ。

いつも凛としている香月さんから、ただならぬ冷気が漂っている。
怖いと思ったのは俺だけではないようで、皆察してか口数が少ない。

「つっちー、今日俺もパントリーだから。飯行こう。」

「えっ?あ、はい。」

稲垣さんが早々に俺を食堂へ連れ出す。
食堂へ向かうエレベーターの中、稲垣さんは大きなため息をついた。

「どうかしたんですか?」

「女心はわからん。」

「はい?」

突拍子もない稲垣さんの言葉に、俺は思わず変な声を上げてしまった。

「茗子、何で怒ってるんだと思う?」

茗子とは、香月さんのことだ。
稲垣さん、香月さんのこと名前で呼ぶほど親しかったんだ。いや、待てよ。もしかして。

「もしかして二人は付き合ってる…とか?」

「そうだけど、知らなかった?」

あっけらかんと言う稲垣さんに、俺は言葉を失った。
確かに仲良さそうではあったけど、まさか付き合っていたとは全然気付かなかった。