そんな折、ようやく新人が入ることになった。

事前説明も何もなく、「今日から来るから」「つっちーがパントリーでいろいろ教えてあげて」というざっくばらんな指示をされ、俺は慄いた。

つっちーとは俺のあだ名だ。
名字が「土橋」だから「つっちー」。
うん、ありがちだ。

「えっ?今日から新人が入るんですか?」

もうすっかり新人なんて入らないだろうというか、そんな期待を持っていたことを忘れて日々を過ごしていたので、少し声が裏返ってしまった。

「そう。女子だぜ、女子。とりあえずパントリー勉強してもらうから。」

パントリーというのは配膳室のことだ。
ここで、厨房から上がってくる料理を部屋や人数毎に仕分けしたり、時間を見計らって冷蔵庫から出したり飲み物を補充したりといった、配膳係にバトンを渡す中継となる非常に重要な役割を担う。

新人はお客さんの前に出る前にまずここを経験して業務の流れをつかむ。
もっとも、配膳係よりも重いものを持ち体力がいるので、女性バイトは数日経験したらすぐに配膳係に回されることになるのだが。

忘れていたドキドキ感が戻ってくる感覚があった。

俺はニヤケそうになるのを抑えつつ、至って平静を装い「わかりました」と短く返事をした。