「昔、寝子池神社の前で車にひかれた猫、あれは私のお母さんです。子猫だった私はどうしたらいいかわからなくて、その場をウロウロするだけだった。そこに通りかかったのが、土橋くん。」

それは覚えているし春宮さんにもその話をした。
その時の猫が春宮さんだと言うのだ。

「手厚く保護してくれて、私には食べ物を与えてくれた。お母さんは人間の使う乗り物である車にひかれたから人間なんて大嫌いって思ってたのに、その人間である土橋くんは私に優しさをくれた。」

春宮さんは淡々と語る。
ふと、伏し目がちだった視線が上げられて、上目遣いに俺を見つめる。
心臓が跳ねそうなくらい、ドキリとした。

「すごく優しくてかっこよくて、その時から私は土橋くんを好きになったんだよ。」

春宮さんの言う、「ずっと好きだった」は、このことだったんだ。
けれど、猫であるという事実はまだ受け入れられていない。
目の前にいる春宮さんは、どう考えても人間だ。

「私は土橋くんにちゃんとお礼が言いたくて、人間になったんだ。」