俺をフッたくせに、ずっと好きだったとか、嬉しいとか、なのに泣くとか、全くもって意味不明だ。

ただ、春宮さんがあまりにも悲しそうな顔をするので、俺は文句の1つも言えやしなかった。

「あのね、聞いてほしいことがあるの。」

と、春宮さんはポツリとこぼす。
瞳が揺らいでいて声も若干震えている気がして、俺は緊張のあまり息を飲んだ。
一体何が語られるのか、全く予想もつかず、俺は次の言葉を待つ。

「私、猫なの。」

彼女から発せられた言葉は単純な単語なのに、俺の脳は理解することを止めたかのようにフリーズした。

「えっ、と…。」

理解が追い付かず言い淀んでいると、彼女は俺を真剣な眼差しで見据えて言う。

「ずっとあなたにお礼が言いたくて。だけどお礼を言ってしまったらこの生活が消えてなくなってしまう。だからずっと言えなかった。でももう言わなきゃいけないよね。あの時、助けてくれてありがとうございました。」

「なくなる?あの時?いや、それよりも猫って?」

まったくもって春宮さんの言葉が頭に入ってこず、とりあえずの疑問を口にする。

「猫なの?」

「うん、猫。」

「猫みたいってこと?」

「違う。本物の猫。」

「猫?」

「うん、猫。」