「その猫の近くに子猫がいてさ、もしかして母猫がひかれちゃったのかな?とか思ったらその子猫が不憫に思えて、その時1回だけ餌をあげたんだよね。」

車にひかれた親猫と近くをうろうろする子猫。
その光景を見てしまったからには見て見ぬふりができなくて。

俺はバイト先に戻り、ダンボールと社食の余り物のちくわの煮物を引っ付かんで猫の元へ戻ったんだ。

子猫にちくわを差し出すと、警戒しながらもクンクンと鼻を鳴らしていた。
もしかしてまだミルクが必要なのかと思ったけど、そんな都合よく持っていない。
頑張って食べろよと小さく切って置いてやった。

親猫はそっとダンボールに入れた。
明日になったら火葬場へ持って行ってやろう。
ダンボールを抱えて立ち上がると、辺りはしんと静まり返っていた。
子猫はちくわを少しだけかじったのを見たけど、気付いたら姿はなくなっていた。
きっとどこかへ行ってしまったのだろう。

「あの子猫もまだこの辺にいるのかな?元気でいてくれたらいいんどけど。」

俺はまわりを見回してみる。
確か茶色っぽくて、少し白色も混じっていたような気がする。