「今日はすごく忙しくなりそうだね。」

春宮さんがため息混じりに言う。

「今日は送り火の日だからね。」

俺の言葉に、春宮さんはきょとんとした。

「送り火、知らない?」

「うん。なあに?」

送り火を知らないということは、地元はここではないのかもしれない。
俺は生まれも育ちもずっとここだから、小さい頃から毎年送り火を見ている。

裏山に地域の住民が松明を持って登る。
ご先祖様が迷わないように、現世からまたあの世へ帰れるように送り出すのだ。
いつの時代からか、山に隣接する池の畔で花火も上がるようになった。
時代が廻るにつれて、それはお祭りのようになり、たくさんの屋台が軒を連ねる一大イベントになっている。
静かな街並みも、この日ばかりは観光客も多く訪れ、とても賑やかしい。

「だから今日はお客さんがいっぱいなんだね。」

春宮さんは俺の話を聞いて、うんうんと納得した表情を見せた。

「私も見てみたいなぁ。」

「うーん、仕事が終わる頃にはもう終わっちゃってるよ。」

俺の言葉に、「そっか、残念」と春宮さんは静かに笑った。