春宮さんはその後2回ほどパントリーを経験して、すぐに接客担当になった。
俺の知っている限りの歴代の新人バイトよりも早い段階で接客だ。

俺もその方がいいと思っていた。
一緒にパントリーで仕事をすると、春宮さんの力が弱いのがよくわかる。
業務用冷蔵庫からビールを1ケース出すだけで大仕事だ。
真っ赤な顔をしながら腕がプルプルなっている。
おまけに彼女は背が低い。
背伸びをしながら必死だ。
失礼ながらそれはとても可愛らしくて、俺はついつい手を貸してしまう。
そうすると彼女は、これまた可愛らしい顔で「ありがとう」と言うのだ。

その愛想の良さは完全に接客向きだ。
だけどパントリーで俺だけに向けられるこの笑顔を独り占めしたい等と独占欲にかられてしまう時点で、俺は春宮さんに惹かれ始めている。
くりくりとした目が細くなって、くしゃっと笑う。
ただそれだけなのに、惹き付けられて仕方ない。

だけど春宮さんが接客に入るということで、関わりが薄くなっていった。
俺は相変わらずパントリー担当で、同じシフトの日は顔を合わせるけれど、ただそれだけで。

残念な気持ちを抱えたまま、ゴールデンウィークから修学旅行、結婚式が立て続けにあり、怒濤の日々が過ぎた。
その頃には春宮さんもしっかり仕事を覚え、初々しさも抜けて堂々と働くようになった。