せっかく通り沿いの植木に同化していたのに!
 何をするんだと無言で睨みつけると、呆れた顔をされた。

「お前な。目立ちまくってるから。植木の陰に隠れて店内覗く女とか、不審者以外の何者でもないからな」
「植木に同化してませんでした?」
「するわけねーだろ。バカか?」

 こめかみを押さえながら、真斗さんはまたため息をつく。そして、もう一度「行くぞ」と言って私の腕を引いた。

 ガラス扉が開くと、中からはすこしもわっとする温かな空気が流れてきた。
 だいぶ寒くなってきたので、この温かさにホッとする。二つある奥側のレジの店員さんが、笑顔で「いらっしゃいませ。ご注文はお伺いします」と右手を軽く上げている。

「何にする?」
「えーっと、ホットココア」
「了解」

 レジに向かった真斗さんが店員さんに「ホットココアとカプチーノお願いします」と告げる。私は慌てて財布を出そうとしたが、チラリとこちらを見た真斗さんと目が合って片手で制止されてしまった。

「払いますよ」
「いいよ。俺の用事で付き合って貰ってるんだから」
「え? いいんですか?」
「いいって」

 苦笑した真斗さんに「たかだか四〇〇円くらい、素直に奢られとけよ」と笑われてしまった。
 二人分の飲み物が乗ったトレーを持った真斗さんが店内の奥へと歩き始めたので、私はおずおずと後を追う。健也と一緒だったときなら全額私が払うシーンだったので、慣れないことに戸惑ってしまう。

「どこに座りますか?」
「どこがいいかな? 様子が見えるようにあの辺?」
「あんまり近いとうちらってバレちゃいますよ。やっぱり窓越しに覗いていた方が──」

 きょろきょろしながらそんな会話を交わし、座る席を吟味する。そうこうするうちにスマホを眺めていたミユさんが不意に顔を上げる。タイミング悪くバチっと目が合ってしまい、ミユさんは怪訝な表情をしてからパッと表情を明るくさせた。

「真斗君、梨花ちゃん!」

 笑顔で手を振られ、私は『しまった!』と思った。
 任務失敗である。なんでことだ、これだから外から覗こうと言ったのに!
 
 狼狽える私に対し、真斗さんはまるで何事もなかったかのように落ち着いた様子で、ミユさんの横へと歩み寄った。

「こんなところで、偶然ですね」
「本当にね。今まで一回もこの辺で会ったことなかったのに。……今日はどうかしたの?」