下を向いているのをいいことに、私はその女性を窺い見た。

 まつ毛エクステをしているのか、長い睫毛はくるんと上を向いて目元に影を作っている。二重のはっきりとした大きな目元のせいで、化粧はさほど濃くもないのに華やかな雰囲気がある。そして、首元にはお花のような形をした白いネックレスを付けていた。
 
 一方、真斗さんを見ると女性が持ってきた黒い鞄を片手で持ち上げ、それをじっくりと眺めていた。

 黒い皮にはダイヤ模様のような交差状の縫い目が付いており、肩ひも部分は金色のチェーンと黒革紐を組み合わせたような特徴的なデザインだ。フリップ部分にはアルファベットの『C』を左右対称にひっくり返して重ねたような金属が付いている。

 随分と特徴的な鞄だなあと思って眺めていると、真斗さんが口を開いた。 

「シャネルのクラシックハンドバックですね」
「そう」

 ペンを走らせていた女性はちらりと真斗さんを見たが、またすぐに手元へと視線を戻した。僅かに眉を寄せた真斗さんは、フラップを開くと中を覗き込む。

「書けたよ」

 暫くすると女性はペンをカウンターの上に置き、鞄を査定している真斗さんへ声を掛ける。
 一方、真剣な眼差しでバックを見つめていた真斗さんは、何やら難しい表情をしたまま顔を上げた。

「これ、うちでは買い取りできないですね」
「え?」

 私は驚いて小さく声を上げた。つくも質店でアルバイトを始めてまだ一カ月弱だけれども、これまで『買い取りできない』と断った商品はなかったのだ。
 勿論、あまり状態がよくないものにただ同然の額を提示することはあったけれど『買い取りできない』ではなかった。

「あー、やっぱり」

 女性は真斗さんの答えに特に驚くふうでもなく、落ち着いた様子で返却された鞄を受け取る。そして、何事もなかったかのように持っていた紙袋にその鞄を突っ込んだ。

「じゃあ、今の以外をお願い」

 何も言われていないのに女性は財布から運転免許証を取り出し、記入済みの用紙と一緒に真斗さんへと差し出した。

「かしこまりました」

 立ち上がった真斗さんは免許証とその紙を見比べながら、鉛筆でチェックを入れてゆく。高価な古物を買い取る際は盗品である可能性もあるので、必ず本人確認が必要になるのだ。

「前回から変わってないよ」
「みたいですね。こちらはお返しします」